声と歌が、まっすぐ届く、ある全寮制高校の一年間
島根県江津市、 浅利富士の中腹に佇む全寮制の愛真(あいしん)高校。生徒数わずか34名のこの学校では、生徒たちは親元を離れ、仲間と寝食をともにしながら三年間を過ごす。スマートフォンもインターネットもない生活の中にあるのは、学友や教師との対話、そして音楽。少し不便で外界から距離を置いた環境だからこそ、人と向き合う時間が自然に生まれる。ここでは、意見を述べるだけでなく、相手の言葉を聞き、受け止め、ときにぶつかることが当たり前に繰り返される。 生活の指針である「決まり心得」もまた、「全体会」と呼ばれる場で生徒と教職員が議論を重ねながら更新されてきた。生徒は自分の声を持つことが他者の声に耳を澄ますことへつながるということを知っていく。
いま、声はあふれている。けれど、その声は互いに届いているだろうか。「自分の意見を持て」と求められ続けた時代の先で、私たちは他者の声を引き受ける力を手放してはいないか。本作は、国内外から集まった若者と教師が共に暮らす愛真高校の一年を記録したドキュメンタリーである。 監督は同校出身の早川嗣(ゆずる)。写真家・映画監督の本橋成一の制作に携わってきた早川が、母校にカメラを向け完成させた。熱心なキリスト教の家庭で育った監督が、自身の青春時代を省みながら撮り溜めた記録であり、彼の本格的デビュー作でもあると同時に2025年12月に逝去した本橋が支援し、最後に世に送り出した作品となった。映画は、学生たちの喜怒哀楽とともに、小さな学舎で対話が生まれる時間を映し出す。
愛真高校16期生。和光大学卒業後、東京ビジュアルアーツ映画学科に進学。在学中にトリウッドスタジオプロジェクトで中編映画『金星』(2011) の脚本・監督を務める。テレビニュースの技術職を経て2018年3月から本橋成一が主宰するポレポレタイムス社に勤務。本橋成一監督の記録映像『人間の汚した土地だろう、どこへ行けというのか』(2020)の撮影・編集・配給。岡野晃子監督のドキュメンタリー映画『手でふれてみる世界』(2022)の編集・配給。
山奥で少し不便な共同生活をする母校。互いの名前をどう呼ぶか、野良猫は飼ってよいか、ドライヤーを導入するか。「そんなことまで」と思うこともみんなで話し合う、それが日常でした。卒業後、私はこういう対話に時間を割かなくなっていきます。伝えることが億劫になったり、聞いているフリをして気に入られようとしたり。深く関わらなければ傷つくことも、嫌いになることもない。そう考えて学校を過去のものにしていたのだと思います。
しかし、20年の時を経てもなお、母校は他者を諦めていませんでした。揉めていても顔を合わせ続け、共に歌っていました。互いを確認するかのような青春。その人間関係に惹かれたのです。
1960年代から炭鉱や上野駅、サーカスなど市井の人びとの暮らしを撮影し、写真家として活動を始める。91年にチェルノブイリ原発事故で汚染された農村への訪問を始め、現地で聴いたアコーディオンの音色を映像で伝えたいと、ドキュメンタリー映画の製作を決意。97年にベラルーシの故郷に留まる家族を追いかけた『ナージャの村』を初監督。02年には、村唯一の汚染なき泉に集まる人々を記録した『アレクセイと泉』でベルリン国際映画祭特別賞を受賞。監督作に『ナミイと歌えば』、『バオバブの記憶』、『アラヤシキの住人たち』があるほか、プロデュース作品多数。最晩年のアシスタントである早川の企画である本作の製作を後押しし、その完成目前に老衰のため逝去。
ポレポレ東中野代表、トリウッド代表、映画プロデューサー。1999年に下北沢トリウッドを設立。新海誠、深川栄洋、吉田恵輔など新人監督の作品を発掘、上映する。2003年にはポレポレ東中野を開館。ドキュメンタリーや若手作家中心のプログラムを組み、運営を続けている。プロデュース作品に『劇場版神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴りやまないっ』(監督:入江悠)、『アラヤシキの住人たち』(監督:本橋成一)、『ドロステのはてで僕ら』『リバー、流れないでよ』(共に 監督:山口淳太、脚本:上田誠)ほか、最新作は『君は映画』(上田誠第一回監督作品)。
早川さんは、私が専門学校で教えていた元学生です。キリスト教への思いを抱え、生真面目に他者の言葉を受け止めるその姿勢は、ときに彼自身の迷いにもつながっていたように思います。
私は写真家の本橋成一さんと映画館「ポレポレ東中野」を立ち上げ、2015年には本橋監督、私がプロデューサーとして『アラヤシキの住人たち』を公開しました。
その後、早川さんは報道の現場を経て本橋さんのアシスタントとなり、ベラルーシや福島を訪れます。被写体と向き合う姿を間近で学ぶ一方で、自身の表現との距離に悩む時期もあったはずです。
やがて彼は自らの視点で映像に向き合う決断をします。本橋さんはそれを静かに受け止め、「彼をよろしくお願いします」と私に話されました。昨年末に逝去された本橋さんと私が、本作の共同プロデューサーを務めました。
本作は、彼が他者の言葉を受け止め続けてきた時間が、初めて自らの視点として結実した作品です。
| 地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
| 北海道 | シアターキノ | 011-231-9355 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 北海道 | 浦河大黒座 | 0146-22-2149 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 青森 | シネマ・ディクト | 017-722-2068 | 8/1(土)〜7(金) |
| 備考: | |||
| 宮城 | フォーラム仙台 | 022-728-7866 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 福島 | フォーラム福島 | 024-533-1717 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 山形 | ムービーオンやまがた | 023-682-7224 | 10/16(金)〜29(木) |
| 備考: | |||
| 地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
| 東京 | ポレポレ東中野 | 03-3371-0088 | 2026/6/6(土)〜 |
| 備考: | |||
| 千葉 | キネマ旬報シアター | 04-7141-7238 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 群馬 | シネマテークたかさき | 027-325-1744 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 埼玉 | 川越スカラ座 | 049-223-0733 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 栃木 | 小山シネマロブレ | 050-3196-9000 | 8/7(金)〜20(木) |
| 備考: | |||
| 栃木 | 宇都宮ヒカリ座 | 028-633-4445 | 10/2(金)〜15(木) |
| 備考: | |||
| 地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
| 愛知 | ナゴヤキネマ・ノイ | 052-734-7467 | 7月予定 |
| 備考: | |||
| 静岡 | シネマイーラ | 053-489-5539 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 長野 | 長野相生座・ロキシー | 026-232-3016 | 8/21(金)〜9/3(木) |
| 備考: | |||
| 長野 | アイシティシネマ | 0263-97-3892 | 9/11(金)〜24(木) |
| 備考: | |||
| 長野 | 上田映劇 | 0268-22-0269 | 9/4(金)〜 |
| 備考: | |||
| 地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
| 大阪 | 第七藝術劇場 | 06-6302-2073 | 7/4(土)〜 |
| 備考: | |||
| 兵庫 | kino cinéma神戸国際 | 0797-87-3565 | 7/24(金)〜 |
| 備考: | |||
| 兵庫 | 宝塚シネ・ピピア | 0797-87-3565 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 京都 | 出町座 | 078-230-3580 | 7/31(金)〜 |
| 備考: | |||
| 地域 | 劇場名 | 電話番号 | 公開日 |
| 福岡 | KBCシネマ | 092-751-4268 | 8月14(金) |
| 備考: | |||
| 大分 | 別府ブルーバード劇場 | 0977-21-1192 | 近日公開 |
| 備考: | |||
| 宮崎 | 宮崎キネマ館 | 0985-28-1162 | 8月21(金)〜9/3(木) |
| 備考: | |||
| 高知 | 高知県立県民文化ホール グリーンホール | 088-824-5321 | 7月22(水) |
| 備考:一日限定上映 | |||
| 沖縄 | 桜坂劇場 | 099-222-8746 | 8/15(土)〜 |
| 備考: | |||
comments
それは表現すること、語り合うこと、生きることの本質と繋がっています。
どうかこの映画が、静かにゆっくりと、そして無限に人の心を満たしていきますように。
何も決めきれなくても、正解や答えが出なくても、君と僕とは違っていながらも、最後は歌ってハモって重なってみる。そうしているうちに、少しまたわかってきたり、ちょっと動き出せたり。
きっとそれは、素直な体がもとめた気持ちいい隣り合い方なんだな。
それがこの映画では、余りあるほど描かれている。
営みを通し、皆で話し合い、共同体として選択を続けていく。
それがどれほど幸福なことであるかが、まざまざと映し出されている。
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いま日本社会を生きる私たちは、自由になったつもりでいる。だがその自由はたいてい、相手に踏み込まず、自分にも踏み込ませない「相互不可侵」の自由だ。でも人は、他者から自分の声を受けとめてもらってはじめて、自分には何が大事で何が嫌なのかに「気づく」のではないか。そして自分の気持ちがわからないとき、私たちはほんとうは自由ではないのだろう。
- 西研哲学者、大学院大学至善館教授
※敬称略・順不同